研究テーマについて

1. 当教室での取り組み

名古屋市立大学眼科学教室では、臨床研究、基礎研究ともさまざまな研究を行っています。研究のターゲットの疾患は、主に加齢黄斑変性、糖尿病網膜症があげられます。

当教室での基礎研究は、主に安川准教授と野崎講師が中心となり行っています。基礎研究は、実験室にこもり臨床とかけ離れたことをする、というイメージがあるかもしれませんが、私達のモットーは、つねに臨床で感じた疑問、患者さんの思いを忘れず、臨床にフィードバックさせることのできる基礎研究を心がけることです。忙しい臨床の合間を縫って行う基礎研究は、体力もいることも多々ありますが、新たな実験系を確立させてみんなで喜んだり、実験の結果をみて一喜一憂したり、悩んだりなど、臨床だけでは得られない経験も沢山得られます。当教室ではできるだけ多くの若い先生達に研究に取り組んでもらうことを推奨しています。臨床研究は吉田准教授を中心にスタッフ一同がさまざまなテーマに向かいあっています。臨床研究は普段の日常診療の中、エビデンスに基づいた標準的な治療の成績を統計的に評価し、医療の質の向上を心がけるとともに、基礎研究で得られた結果や海外の報告などを吟味して新しい治療を試みたりしています。また最新の検査機器や治療機器を用いて診断および治療レベルの向上を目指して常に情熱をもって臨床に取り組んでいます。

2.研究テーマのご紹介

3次元球体培養による網膜色素上皮(RPE)の生理機能の解明

RPEは網膜の外側に存在し、網膜の光障害を防ぐため古くなった視細胞を貪食処理し、視物質の元になるビタミンAのリサイクルを担当し、脈絡膜血管からの物質の輸送を規制して、神経網膜の生理機能の恒常性維持に大切な役割を果たしています。RPEの機能異常は多くの網膜色素変性症の原因であり、またRPEの加齢変化が加齢黄斑変性の発症要因となります。RPEの生理機能を理解することで、これらの疾患の病態解明や予防法、治療法の開発につながります。RPE細胞は培養すると通常、筋線維芽細胞様に脱分化を起こして性質が変わり、RPE本来の機能評価が難しくなります。そのため、初代培養のRPE細胞やRPEの特徴を残したまま癌化した特殊な細胞を用いた実験に限定されていました。RPEの脱分化を防ぐため、特殊な培養液を用いたり、トランスウェルと呼ばれる多孔性の特殊な培養皿を用いたりする方法が報告されていますが、安川准教授の研究グループでは独自に確立したRPEの基底膜側の機能評価に有用なRPE細胞の3次元球体培養システムを用いています。粘性を持たせた培養液を用いて丸底培養皿でRPE細胞を培養すると浮遊した状態で細胞同士が接着して球体を形成し表面にRPEの単層上皮、外側に基底膜や弾性線維を含むブルッフ膜を形成することがわかりました。ブルッフ膜の再生を再現できる培養システムはこれまで報告がありません。この培養システムを利用して、ブルッフ膜の再生機構、リポ蛋白排泄機構の解明に取り組んでいます。また、加齢黄斑変性への関与が考えられているアミロイドßやベスト病の原因遺伝子であるベストロフィンの役割について調査しています。

家兎リポフスチン蓄積モデルによる加齢黄斑変性の病態解明

安川准教授がドイツのライプチヒ大学留学中に開発した家兎リポフスチン蓄積モデルを用いて実験を行っています。リポフスチンは加齢とともにRPE細胞内に蓄積してくる顆粒状物質で、視細胞の光障害を防ぐためRPEが視細胞外節を定常的に貪食処理している過程で生じる加齢性の副産物です。この加齢変化の蓄積が後に加齢黄斑変性発症に関与してくると考えられます。本モデルは、最終糖化産物(AGE: advanced glycation end products)からなるリポフスチン模擬微粒子を家兎の網膜下に注入し、RPE内へのリポフスチン蓄積を模倣させたもので、ドルーゼンや脈絡膜新生血管を発生させることができます。また、加齢黄斑変性の前駆所見として注目されている異常眼底自発蛍光も人間の目と同様に観察できます。このモデルを利用し、アミロイドβ、アポE、補体H因子など主要なタンパクの局在を免疫組織学的に検討し、AMDの病態に迫るべく研究を進めています。

レーザー脈絡膜新生血管モデルを用いた加齢黄斑変性の病態解明と新たな治療ターゲットの発見

加齢黄斑変性は、わが国でも患者数が増加しており、成人の視覚障害の原因疾患の上位になってきています。新たな治療法として血管内皮増殖因子(VEGF)をターゲットにした治療が始まりましたが、現在でも発症する前の視力へと回復させることはできません。我々は、マウスにレーザーを過剰な出力で照射して、脈絡膜新生血管を誘導するモデルを用いて、加齢黄斑変性の病態解明と新たな治療ターゲットの発見を目標に研究しています。現在、ドラッグデリバリーシステムとして注目されているアテロコラーゲンを用いたsiRNAによる治療、VEGFを介さない経路による治療について主に研究を行っています。また血管新生、線溶系などに関与する薬剤や上皮細胞の再生、保護に関与する薬剤などの抗VEGF治療の補助薬としての役割を検証しています。

糖尿病網膜症,黄斑症の病態解明とレーザー網膜光凝固の奏功機序解明

糖尿病網膜症は、わが国で成人の視覚障害の原因疾患の1—2位となっている疾患です。我々は、小椋祐一郎教授が開発した、アクリジンオレンジを用いラット生体内で白血球を可視化させる手法を用いて、さまざまな病態モデルで白血球と接着分子の関連を研究し、糖尿病網膜症で白血球と接着分子が病態に深く関与しており、糖尿病網膜症発症機序が炎症であることを解明しました。現在は、薬剤誘発性ラットやマウスを用い、糖尿病網膜症発症に関与する様々なサイトカインや治療ターゲットについて研究を行っております。臨床では糖尿病網膜症の治療としてレーザー網膜光凝固治療が広く行われていますが実際の奏功機序やレーザーにより逆に炎症が惹起されることなど、不明な点、問題点も多くあります。そこで、我々は各種のレーザー光凝固装置、レーザーの照射条件などとVEGFなどのサイトカイン、組織リモデリングの機序などについてマウスを用いて研究を行っています。

さらに糖尿病黄斑浮腫については網膜症の病期にかかわらず、発症することがあり、視力低下の主因となります。しかしながらその発生機序は現在も完全には解明されておらず、様々な治療が行われているものの根本的な治療法は確立されていないのが現状です。これまで治療法の1つとして広く行われてきたものに格子状網膜光凝固がありますが、施行後の網膜瘢痕化による視力低下が問題となっていました。そこで近年、閾値下網膜光凝固という治療法が行われ始めています。この方法は低出力で侵襲が少なく、糖尿病黄斑浮腫に対する有効性が報告されています。我々は、マウスをモデル動物として用い、閾値下光凝固によるサイトカインの発現量の変化や組織リモデリングなどについて検討し、その奏功機序の解明を目指し研究を行っております。

網膜硝子体疾患に対するドラッグテリバリーシステム(DDS)の開発

目はコラーゲンの壁やRPEなどのバリア機能の存在で、点眼薬や内服薬が眼内に到達しにくい特殊な構造をしています。そのため、網膜、脈絡膜に対する治療は抗VEGF薬をはじめとした薬剤の直接硝子体内注射が主流となっています。さらに薬効維持のためには1ヶ月ごとに投与を繰り返す必要があります。しかし、眼内注射は網膜剥離や白内障の他、重篤な眼内炎などの合併症の危険が低頻度であるものの懸念される治療です。この問題を克服するために、眼科領域のDDSの開発に関する研究を行っております。サイトカインや抗体などの生理活性蛋白の徐放に関連した研究を行っています。これにより1回投与の作用期間を延長できる新規抗体製剤の開発の他、再生医療への応用、サイトカインの新規徐放製剤の開発を目指しています。

虚血再灌流モデルを用いた新たな神経保護治療法の発見

わが国における成人の視覚障害の原因は、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性の他に、緑内障、網膜色素変性症があげられます。これらの疾患はどれも、最終的には光などの情報をうける網膜の神経組織に不可逆的な障害がおきることが知られています。我々は、ラットを用いた虚血再灌流モデルで、新たな神経保護治療法の発見について研究を行っています。アクリジンオレンジを用い白血球を生体内で可視化する方法や、光干渉断層計(OCT)を用いて網膜断層像を生体で観察するなど、 in vivoでの手法に重点をおきながら、実験しています。

植村寄付講座教授の研究内容に関しては網膜血管新生に関しては網膜血管生物学寄付講座のページをご覧ください。